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高松高等裁判所 昭和41年(行コ)7号 判決

控訴人(原告) 第一タクシー株式会社

被控訴人(被告) 松山税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和三三年八月二九日控訴人に対してなした清算所得金額二一、九八二、七三七円、右に対する法人税額九、八〇六、一九〇円とする処分のうち、清算所得金額の決定を二〇、七二四、九三〇円の限度において取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」旨の判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、それを引用する。

(控訴人の主張)

(一)  およそ売買契約なるものは、契約の当事者と売買の目的物に対する意思表示の主観的合致を欠くべからざる要素として成立するものである。もし、原審認定のように、道後タクシーの代表取締役であつた訴外白石五郎が契約当時買主の名を知らず控訴会社の関係者が道後タクシー営業所に派遣されてきてはじめて控訴会社が買主であることを知つたがすでに代金受額後であつたのでこれを了承した、というような事実関係であつたとすれば、意思表示の主観的合致を欠き、株式の売買は有効に成立し得ない。

(二)  原審の認定事実によれば、本件株式の売買代金は金九五〇万円であるのに吉良権太郎が白石五郎に手交した小切手は合計金九七〇万円であり、その間に金二〇万円の差があるのに、原審はこの点につき「不明朗な所為」という謎の如き一語を用いているのみで、首肯するに足る理由を付していない。売買に関連して現実に金九七〇万円の金員が授受された以上、その金員は一応売買代金と認められるべきであり、そうとすれば、原審の認定は覆らざるを得ないであろう。本件の売買が被控訴人主張の如き株式の売買でないことは売買代金額の点よりしても明らかである。

(三)  控訴人が道後タクシーより買受けた自動車のうち三台については月賦金が金一、三二〇、七六〇円残つており、愛媛日野自動車株式会社に対する分は昭和三二年四月一日以降、愛媛日産自動車株式会社に対する分は同年三月二五日以降、いずれも九か月間の長期月賦払の約であつたが、もし控訴人が道後タクシーに売買代金一、一〇〇万円を支払つた後同社が右二会社に月賦金を支払わないようなことがあるとすると、控訴人が損害を蒙る(主だつた資産を売渡した後の道後タクシーはもぬけの殼同様である)ので、売買代金のうちの金一三〇万円の支払に代え、月賦金債務中同額を脱退的に引受け、控訴人の立場の安全を期したものである。もし、これと反対に、控訴人が道後タクシーの株主二二名から株式を買受け、その代金の支払に代え債務引受をしたのであるならば、前記二自動車会社が株主らに対して金一三〇万円の債権を有していなければならない筈であるがそのような債権は全く認め難いところである。そうだとすると、控訴人が右株主らのために脱退的債務引受をなすことは絶対に不可能である。本件売買が株式の売買ではなく、控訴人主張のような自動車その他の売買であることは右の点よりしても明瞭であるといわなければならない。

(四)  法人税法施行規則第二三条の九および一〇(昭和三七年政令第九五号「法人税法施行規則の一部を改正する政令」による改正前のもの)は憲法に違反する政令であり、右政令に基づく本件課税処分は違法である。

法人税法施行規則第二三条の一〇は昭和二八年政令第一六三号で追加されたものであるが、株式代金を合併交付金とみなしこれに課税することを規定したものであり、同条の九は、合併法人が納付する被合併法人の清算所得に対する法人税又はその法人税にかかる地方税額に相当する金額を合併交付金とみなし被合併法人の清算所得金額を計算することを規定したものであつて、いずれも法律によらずして国民の納税義務を新たに設定した法規命令であるから、憲法第八四条第三〇条の規定に違背し当然無効の法令である。憲法第七三条の六号にも明記してあるとおり、内閣は憲法および法律の規定を実施するためにのみ政令を制定することができるのであるところ、前記政令は、法人税法に規定がなく、本来交付金でないところのものを「交付金とみなす」として、新たに租税対象を創設し、国民に納税義務を課さんとするものであるから、実質上の立法であり、明らかに租税法律主義に違反する。

なお、被控訴人は、法人税法第九条第七項を根拠として前記政令が憲法違反でない旨主張するが、同項は「所得の計算に関し必要な事項」に限り命令で定めることができる旨規定しているにすぎず、前記政令の定めている事項は「所得の計算に関し必要な事項」の範囲外であるから、被控訴人の主張は失当である。

さらにまた、右政令は、税法の精神ならびに社会の通念に照らし著るしく不当過重な内容を有するものである。被合併会社たる道後タクシーの清算所得は株式の売買代金九五〇万円から右会社の資本金一九〇万円を控除した七六〇万円と算定される。道後タクシーとして、債権債務を差引けばそのほかに何も残らないことは被控訴人も認めているところであつて、右の七六〇万円以外に税金の対象となるべき所得のあるべき筈はない。もしこの七六〇万円に対し法人税法上の税率をかけて課税されるならば、条理上少しもおかしくはないのであるけれども、前記政令と通達のカラクリによれば、課税対象となる清算所得金額は実に実質所得の約三倍の金二〇、七二四、九三〇円となり、納付すべき法人税は金九、二六七、〇一〇円と算出されてくるのである。

国家が実質上の利益の、全額を税金として巻きあげてしまうことの不合理はいうまでもないが、本件課税処分はその全額を巻きあげてもなお足りず、それよりも更に金一、六六七、〇一〇円も多い税金を課そうとするものである。しかもなお、前記の無申告加算税を加えるならば、驚くなかれその税金額は金一、一五八万三、七六〇円也の多額に上るに至る。かくのごとき課税は如何なる暴政の国に在つてもありうべからざることであつて、かかる結果を招来する政令の憲法違反であることは明白である。

(五)  控訴人が本件清算所得についての確定申告書を法定の期限内に提出しなかつたことについては正当の理由があるから、本件無申告加算税の賦課は違法である。控訴会社としては、本件取引は甲第一号証(自動車営業権譲渡譲受契約書)記載の目的物の売買であるという意思であつたから、これにつき納税の申告をしなければならないなどとは考えなかつたし、控訴会社の当時の代表取締役木村秀太郎も道後タクシーの株式を買受けた認識はなかつた。かりに株式を買受けた認識があつたとしても、株を買えば納税の義務が発生するなどと考える者は皆無である。控訴人は実体上資産も何もない道後タクシーを吸収合併したのであつて、このような合併から納税義務が発生するとは通常何人も考え及ばないところである。全国七千の弁護士があるが、本件のような事案に遭遇した弁護士でない以上、到底この納税義務を知り得ないであろう。法人税法施行規則第二三条の九や一〇のごとき条文はいかなる六法全書にもなく、法人税担当の税務官以外には知る由もない規則である。よつて本件無申告加算税の賦課は違法である。

(被控訴人の主張)

(1)  控訴人は、訴外白石は契約当時相手方が誰であるかを知らなかつたのであるから、売買契約は成立し得る筈がない旨主張する。しかしながら、巷間の取引では買主の氏名を表面に出さないで代理人が話をすすめていくことはよく行なわれているところであつて、本件の場合、吉良権太郎は控訴人の代理人として白石五郎との交渉に当つたものであるが、控訴人の要望により、控訴人の名を先方に表明しなかつただけであつて、とくに本人の氏名を表示しなくとも契約は有効に成立すると解すべきである。

(2)  本件株式の売買代金が金九五〇万円であること、右売買に関連し白石が金九七〇万円を受領していることを被控訴人は争うものではない。

しかし、売買に関連して代金額以上の金員が授受されたからといつて直ちに売買契約そのものの存在を否定することは早計である。大きな取引が成立した場合に、代理人や仲介人に対し、売主或は買主の方から謝礼金を出すことは通常よく行なわれるところである。本件において、白石は、株式売買の話をとりまとめ道後タクシーの各株主の代理人となつて契約を締結したほか、各株主の株式引受証や道後タクシーの役員の辞任届をまとめてこれを買主に引渡し、株式譲渡代金受領後はこれを各株主に配分するなど重要な行為を実行して来たものである。このような場合、株式の譲渡を望んでいた控訴人側から謝礼を受けても何ら異とするに足りない。

本件において、契約では手附金は金八〇万円と定められていたところ、控訴人の手附の交付に当り八〇万円と二〇万円の小切手二通を交付しているのであつて、このこと自体で金二〇万円は謝礼の趣旨で交付されたものであることがほぼ推認できるのであるが、更に本件売買に関連して吉良に交付された小切手三通、合計金九七〇万円のうち、八〇万円と八七〇万円の二通の支払人は百十四銀行松山支店であるのに、二〇万円の支払人は伊予銀行であつたことおよび現に控訴人が本件売買に尽力した吉良に対し金一五万円、田窪に対し金二万円の謝礼金を支払つている事実を考え合せれば、本件金二〇万円が白石に対する謝礼であることは極めて明らかである。

(3)  控訴人が道後タクシーの手形債務金一三〇万円を免責的に引受けたような事実はない。

道後タクシーの株式の売買は同会社の積極消極財産とは関係がなく、その財産に何らの影響をも生ずるものではない。本件の場合は、株式の譲渡とは別箇に後日道後タクシーと控訴会社が合併した結果、被合併会社である道後タクシーの手形債務が合併会社である控訴人に承継されたのにすぎないのである(商法第四一六条第一項、第一〇三条)。ただ控訴人の商業帳簿には、合併登記前に道後タクシーの資産、負債を引き継いだ旨の記帳はあるが、これは株式譲渡により道後タクシーの実権を掌握した控訴人が将来の合併を予定しそのように記帳したものであつて、何ら異とするに足りないものである。

(4)  本件課税処分は何ら憲法に違反するものではない。

法人が合併した場合において課税される清算所得の計算は旧法人税法第一二条の二第一項第二号に定めるところであるが、当時施行の法人税法施行規則第二三条の九および第二三条の一〇にいわゆるみなし交付金は政令の規定をまつまでもなく清算所得の本質から当然課税所得の範囲に計算されるべき性質のものであつて、政令は単にこれを確認する意味において規定しているのにすぎない。かりに右の各政令が租税対象を創設した規定であるとしても、清算所得の範囲の決定は多分に計算技術的な面が多いので、法律はこれを政令に委任することとしているものである。すなわち、旧法人税法第一二条の二第五項によると、「第九条第七項の規定は、第一項の清算所得の計算について、これを準用する」とあり、その第九条第七項には「……所得の計算に関し必要な事項は命令でこれを定める」とある。この法律の委任により前記政令が定められているのであるから、なんら租税法律主義に反するものではない。

これを更に詳細に説明すると、次のとおりである。

法第一二条の二にいう「合併法人が被合併法人の株主、社員又は出資者に対して交付する株式又は出資の価額の総額及び金銭の総額」には、現実に被合併法人の株主等に交付されたものと、さらに実質的にこれに交付されたと同一視し得るものを含むと解すべきである。それは、清算所得課税の本旨が被合併法人の株主等が合併に際し取得する所得を対象とする以上当然のことである。清算所得に対する法人税等は、本来は被合併法人が負担すべき性質のものなのであるが、租税立法の技術上、合併法人に納付義務を負わせたのにすぎない。従つて、合併法人がこれを納付した場合には、経済的には被合併法人の株主等に交付した金銭等と同様であるといわなければならない。このことを更に具体的に表現すれば、被合併法人の株主等は、合併法人から税引後の交付金を受けたともいえるし、また、現実に受けた交付金に税金をプラスした実質交付金から税金だけを合併法人に渡し、代理納付してもらつたともいえるであろう。およそ法人税、所得税を問わず、課税標準とされる金額はすべて税込所得であり。清算所得についても異例ではあり得ないのである。

なお、別の観点から考えてみると、解散による清算の場合においては、清算法人自らが税を負担するのに対し、合併の場合においては、合併法人が被合併法人の税を負担するという相違点があるが、かりに解散による清算法人の残余財産(税引前)と合併により被合併法人の株主等に交付された株式等の価額とが同一と仮定した場合には、株主等に還元される金額は後者の方が税相当額だけ多いことは自明の理である。このような場合に課税標準を同一として課税することは明らかに不合理であり、清算の形態が異なるからといつて不均衡な取扱いを許すことは法の所期するものではない。

故に、「みなし交付金」は性質上清算所得の一部を構成し、税法上は法第一二条の二第一項第二号に定める合併交付金に含まれると解さなければならないし、かく解することが法の定めに最も合致するのである。

次に、合併を意図して合併前に被合併法人の株式等を取得した場合、これが旧法人税法第一二条の二第一項第二号の交付株式、金銭等に当たらないかどうかの問題であるが、これは当たらないと仮定した場合の不合理をあげることによつて自づと解決されるであろう。いま、当たらないとした場合の不合理点の第一は、合併による交付株式、金銭等と同様の経済的効果が発生していることである。第二は、単に時期が合併前であるという相違があるだけであるにもかかわらず、清算所得の発生がなくなることである。すなわち、被合併法人の株式等をあらかじめ取得しておいて合併すればみずから保有する株式等については新株の引当の必要がないため、受入資産は計算上保有株式と振り替わるだけとなり、清算所得は発生しない。第三は、株式を譲渡した被合併法人の株主等はその譲渡について所得税を課せられない。所得税法上個人の有価証券にかかる譲渡所得は非課税とされているためである。この結果、法人、個人を通じて合併により生ずべき課税を回避できることとなる。このようなことが許されることは、あり得べからざることで、課税の公平という原則に照らし、排除されなければならない。

次に法律の委任についてであるが、税法そのものは技術的な性格があり、具体的な課税に必要とする所得の計算方法について細大もらさず法律を設けることは困難な場合がある。したがつて、税法では大綱を定め細目的な規定は税法の定める範囲内で政令に委任することは、許容されるべく、法第一二条の二第五項において清算所得の計算方法について政令に委任することは適法である。そしてここにいう計算方法とは、法に定める大綱を具体化することを指すものというべきである。

よつて、前記各政令は憲法に違反せず、本件課税処分は適法である。

(5)  控訴人が本件清算所得についての確定申告書を法定の期限内に提出しなかつたことについては正当の理由はない。

法人税法第二五条の二(昭和二八年法律第一七四号追加によるもの)第一項によれば、合併法人は合併の日から二か月以内に被合併法人の清算所得金額及び当該清算所得に対する税額を記載した申告書を提出しなければならず、また同条第三項により、被合併法人に清算所得について納付すべき法人税がない場合も同様であるとされている。したがつて、かりに控訴人の主張するように合併による清算所得がなく、納付すべき法人税がない場合においても、被合併法人の合併の時における貸借対照表その他合併に関する書類、合併により承継した資産の明細書を添付した申告書を提出しなければならない。それにもかかわらず、控訴人はこれを提出しなかつたものであり、また提出できなかつたことについて、交通、通信のと絶等、正当な事由もなかつたのであるから、控訴人に対し無申告加算税を決定したことは適法である。

なお、控訴人は、清算所得がないから申告をしなかつたとか、あるいは株式を譲り受けて合併した場合清算所得の課税の適用があることを知らなかつたとか主張するが、それらの事由は申告をしなかつたことについての正当の事由ということはできないのである。

(証拠関係)〈省略〉

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求は認容できないと判断するものであつて、その理由は、次に訂正、付加するほかは、原判決の理由と同様であるから、それを引用する。

一  原判決一五枚目表六行目に「志奈乃のおいて」とあるのを「志奈乃において」と訂正し、一八枚目表五行目に「二五日」とあるのを「二一日」と訂正する。

二  控訴人が当審において提出した書証のうち、甲第二五号証の一ないし七、第二七号証の一ないし一四、第三一号証は、当審証人木村秀太郎の証言によりその成立を認めることができ、右各書証には、株式の売買なる被控訴人の主張に十分適合しないかの如き記載もないではない。しかし、本件の取引は経済的には単なる株式の売買でなくして道後タクシーなる会社そのものの買収であり、当事者間では合併を前提として事務が処理されていたことを考慮すれば、右の各書証は未だ本件取引を株式の売買とみることの妨げとなるものではない。当審証人木村秀太郎の証言中、控訴人の主張に副う部分は、原判決が挙示した各証拠および認定した諸事情に照して採用できず、ほかに原判決の認定を左右するに足るべき証拠はない。

三  控訴人の当審主張(一)について。

しかし、買主の代理人において本人の氏名を明示せず、売主において買主本人の氏名を知ることができなかつた場合においても、売主が目的物をその代理人の依頼者たるべき者(本人)に売渡すことに異議のない場合は、売買契約は有効に成立するものと解せられ、売主において買主の氏名を知らなかつた場合は常に売買契約が不成立となるとの法理は発見することができない。原審認定のような事情であつたからといつて、直ちに本件売買契約が無効に帰するいわれはないから、控訴人の主張は理由がない。

四  同じく(二)について。

しかし、一般に買主が代理人に対し、代金の最高限を示して目的物を買入れることを委任し、代理人がその努力により最高限以下で売買を成立させた場合にはその差額を代理人に取得させるという事例がないではなく(代理人がその差額を広義の運動費として使用する場合もあろう)、また、買主が代理人や仲介人に対し、買受代金と謝礼金とを一括して交付することも全くあり得ないことではなく、控訴人主張のように、買主がその代理人に手渡した金員がすべて売買代金額と認められなければならないものではない。原判決の挙示した証拠によると、売主の代理人である白石五郎は買主の代理人である吉良権太郎より金九七〇万円を受領しながら売主ら(自己を含む)に対しては金九五〇万円を交付し、差額金二〇万円は吉良権太郎の承諾のもとに自らにおいて取得したものと認められる(この認定に反する原審および当審証人白石((又は上田))五郎の証言は信用できない)。しかし、原判決挙示の証拠によると、右の一株金二五〇円総額にして金九五〇万円なる代金額は、何ら売主本人たる道後タクシーの株主らおよび買主本人たる控訴人の意思に反するものではないことが認められ、かりに白石において右金二〇万円の取得につき道後タクシーの株主らの了解を得ていなかつたとしても、それだからといつて売買契約が有効に成立しなかつたことになるものではない。結局、本件株式の売買は代金額金九五〇万円で成立し、金二〇万円は買主側より白石五郎に交付された謝礼金であると認められるから、控訴人の主張は理由がない。

五  同じく(三)について。

しかし、愛媛日野自動車株式会社外一社が道後タクシーの株主らに対して金一三〇万円の債権を有していなければ控訴人が絶対に金一三〇万円の債務の引受をなし得ないものではない。右自動車会社二社と控訴人および道後タクシーの意思の合致さえあれば、債務は有効に移転するのであり、それ以外の格別の条件を必要としない。ただ、全く無償で他人の債務を引受けることはまずあり得ないところから、控訴人が道後タクシーの株主から株式を買受けたとした場合に、控訴人が別の人格者たる道後タクシーの債務を負担する動機、原因が問題となるに止まる。しかし、この点については、原判決もとくに説明を付しているところであつて、本件取引の背景を考慮すれば、控訴人が道後タクシーの債務を引受けたところで何ら不合理ではあり得ない。しかも、本件の場合、控訴人が真正な意味での債務引受契約(債務の特定と自動車会社の承諾を要する)をしたと認めるに足る証拠はなく、実質は、控訴人と道後タクシーの間で、将来の合併を予測の上(合併が実現すれば道後タクシーの債務は当然に控訴人において承継し、あえて債務引受を要しない)、自動車会社二社に対する債務金一、三二〇、七六八円中一、三〇〇、〇〇〇円は道後タクシーの出捐において処理することを要しない旨協定し、その協定との関連において本件株式の売買代価が決定されたのにすぎない(なお合併の実現により控訴人は右金一、三〇〇、〇〇〇円の債務を当然承継し、右債務を支払つた)と認められ、控訴人の右主張は理由がない。

六  同じく(四)について。

昭和三七年政令第九五号による改正前の法人税法施行規則第二三条の九は、合併法人が被合併法人の税金を納付した場合の清算所得の計算についての定めとして、「法人が合併した場合において、合併法人が納付する被合併法人の清算所得に対する法人税(被合併法人が解散した後に合併した場合には、当該解散に因る清算所得に対する法人税を除く。)又はその法人税額に係る地方税法の規定による道府県民税額若しくは市町村民税額若しくは清算所得に対する事業税額に相当する金額は、これを合併法人が被合併法人の株主、社員又は出資者に対し、合併に因り交付する金銭とみなして被合併法人の清算所得金額を計算する。」と規定しており、また同条の一〇は、合併法人が合併前に被合併法人の株式を取得した場合の清算所得の計算についての定めとして、「法人が合併した場合において、合併前に合併法人が取得した被合併法人の株式があり、その取得に因り被合併法人の清算所得金額が不当に減少する結果となると認められるときは、当該株式の取得に要した金額は、合併法人が被合併法人の株主、社員又は出資者に対し合併に因り交付する金銭とみなし、当該株式については、合併法人の株式の割当又は引当があつたものとみなして被合併法人の清算所得金額を計算する。」旨規定している。

しかしながら、旧法人税法第一二条の二(清算所得の計算についての条文)の第五項は、「第九条第七項の規定は、第一項の清算所得の計算について、これを準用する」旨規定し、その第九条第七項は、「……第一項の所得の計算に関し必要な事項は、命令でこれを定める」(註、「第一項の所得」とは内国法人の各事業年度の所得)旨定めていて、前記法人税法施行規則第二三条の九および一〇は、この法律の規定(法律の委任)に基づく命令であると解することができるのである。

この点に関し控訴人は、旧法人税法第九条第七項は「所得の計算に関し必要な事項」に限り命令で定めることを許しているにすぎず、前記各政令は、右の範囲を超え、新たに租税対象を設定し国民に納税義務を課そうとするものであるから、違憲の法規である旨主張する。しかし、前記規則第二三条の九は、被合併法人の清算所得の計算に際し、合併法人において代つて納付することとなる法人税又はその法人税にかかる地方税相当金額を合併交付金とみなし、被合併法人の清算所得を計算するというだけの規定であつて、一般に税法上の所得が税込所得であり、清算所得課税の本旨が被合併法人の株主等が合併に際し取得する所得を対象とするものであることから考えれば、右税金相当額は理論上清算所得の一部を構成すべきものであつて、右の規定は公平上当然の取扱を定めたものであるといえよう(なお、法人が解散した場合には、その法人自らが右の税金を納付することになるのであり、その場合との均衡からいつても、右の取扱は当然であるといわなければならない)。また右規則第二三条の一〇は、合併法人において合併を予期してあらかじめ被合併法人の株式を取得しておけば新株割当の必要がないため清算所得が発生せず(合併法人の保有株式が他の受入資産に変化するのみとなる)、株式を譲渡した株主にも現行法上所得税課税がなく、容易に租税が回避されて不公平となるところから、その株式取得に要した金額を合併法人が被合併法人の株主等に交付する金銭とみなし、当該株式については、合併法人の株式の割当又は引当があつたものとみなして、被合併法人の清算所得金額を計算する、という趣旨の規定と考えられ、合併法人が合併を予期して株式取得のため支払つた金銭は、その経済的実質において、合併に際し被合併法人の株主等に交付される金銭と差異はないから、両者を法律上同一視することは、何ら法人税法の趣旨に反せず、むしろ清算所得の本質に適合する所以であると称し得る。そうだとすると、右政令の各規定は、決して新たに課税対象を設定したり国民に納税義務を課したりするものではなく、法律の清算所得についての定めを補足、敷衍しているに止まるものであつて、旧法人税法第一二条の二第五項第九条第七項にいう「(清算)所得の計算に関し必要な事項」についての定めであると解することができるから、控訴人の主張は理由がない。

次に控訴人は、前記各政令規定は著るしく不当過重な課税を招来するものであるから、憲法違反である旨主張する。しかしさきに述べたところから自ら明らかなように、合併法人において被合併法人に代り納付することとなる税金や、合併を予期しあらかじめ株式取得のため支払われる金銭を合併交付金とみなすこと自体は、別に不当過重な課税結果をもたらすものではない。また現行法人税法は本来の意味の法人税課税のほか、被合併法人の株主等の受ける個人的利益に対する課税をも同時に行なうものと解されるが、これは立法政策の問題である。ただ、本件の場合、控訴人にとり、課税処分そのものが甚だ意外であつたばかりか税額も著るしく多額と映じたであろうことは、弁論の全趣旨上窺うに難くないけれども、それは実は、控訴人が現行租税法制をよく知らず、控訴人の負担することとなる税金を考慮に入れれば適切でない代金で本件株式を買入れたからにほかならないのであつて、控訴人の違憲の主張は理由がない。

七  同じく(五)について。

原判決の認定した事実に従えば、控訴会社代表者は本件取引を株式の売買であると認識していたものと認められ、当審証人木村秀太郎の証言中、右認定に反する部分は信用できない。また、控訴会社代表者が株式を買受ければ納税の義務が発生することを知らなかつたとしても、それは法令の不知にほかならず、清算所得についての確定申告書を法定の期間内に提出しなかつたことについての正当の事由となるものではない。この点の控訴人の主張も失当である。

以上の次第であるから、控訴人の本件請求(請求の趣旨は原審と当審とで表現に差があるが、要するに昭和三三年八月二九日付課税処分((国税局長の審査決定により取消されていない部分))の全部の取消を求める趣旨であることは明瞭である)は理由がなく、これを棄却した原判決は正当である。よつて本件控訴を棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 橘盛行 今中道信 藤原弘道)

原審判決の主文、事実および理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告訴訟代理人は「被告が昭和三三年八月二九日原告に対してなした清算所得金額二〇、七二四、九三〇円、法人税額九、二六七、〇一〇円、無申告加算税額二、三一六、七五〇円の法人税課税処分は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

二、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二、原告の主張

一、原告の請求原因

(一) 原告はタクシー業を営む株式会社であるが、被告は、昭和三三年八月二九日、原告に対し、原告が昭和三二年五月一三日訴外道後タクシー株式会社(以下道後タクシーという)を吸収合併した件につき、その清算所得金額を二一、九八二、七三七円、法人税額を九、八〇六、一九〇円、無申告加算税額を二、四五一、五〇〇円、重加算税額を四、九〇三、〇〇〇円とする法人税課税処分をした。

原告はこれを不服として昭和三三年九月二五日被告に対し右課税処分に対する再調査の請求をなしたところ、右請求は同年一二月二六日国税局長に対する審査請求とみなされ、高松国税局長は昭和三七年二月二一日原処分の一部を取消し、清算所得金額を二〇、七二四、九三〇円、法人税額を九、二六七、〇一〇円、無申告加算税額を二、三一六、七五〇円とし、重加算税は全部取消す旨の審査決定をなし、右決定は同年三月一日原告に到達した。

しかして、右課税処分の理由は、原告が道後タクシーを吸収合併したが、その合併前に同社の株式を取得しており、法人税法施行規則第二三条の一〇に該当するというのである。

(二) しかしながら、原告は道後タクシーとの合併前に同社の株式を取得していた事実はなく、被告は、原告が道後タクシーとの合併前に同社の営業財産の一部を譲り受けた事実を、その際同社の株式を譲り受けたものと誤認して前記課税処分を行なつたものである。これを詳述すれば次のとおりである。

(1) 原告は、昭和三二年二月三日、吉良権太郎を介して道後タクシー(当時の代表取締役白石五郎)から、同社が一般乗用旅客自動車運送事業につき免許を受けた乗用自動車八輛及び電話加入権を代金一、一〇〇万円で買受け、代金支払について、当時道後タクシーが右自動車の購入先である愛媛日野自動車株式会社に対し三七八、七六八円、愛媛日産自動車株式会社に対し九四二、〇〇〇円合計一、三二〇、七六八円の自動車月賦買入代金債務を負担していたので、買主の原告において内一三〇万円の債務につき免責的に債務を引受け、前記売買代金からこれを控除した九七〇万円を直接支払うこととし、併せて道後タクシーが営業所として使用していた松山市大字道後八七三番地所在の建物を昭和三四年一月末まで賃借することを約し、同三二年二月五日右吉良を介して手付金一〇〇万円を道後タクシーに支払つた。(なお、右契約に当り、原告は同業者の妨害工作を警戒し買主が原告であることを表面に出さず道後タクシーに対してもこれを明かさなかつたが、手付金の授受を了してその必要がなくなつたので、原告が買主であることを明らかにし、同日松山市二番町料亭志奈乃において原告の専務取締役兵頭進と道後タクシー代表取締役白石五郎との間で右契約は確認された。)その後、原告は、同年同月二七日原告振出の額面八七〇万円の小切手を右吉良に交付し同人を通じて残代金八七〇万円の支払いを了し、同年三月一日道後タクシーから前記売買物件の引渡を受けた。

(2) ところで、自動車旅客運送事業は認可を要する事業であつて、原告が譲り受けた自動車をその営業に使用するためには、関係官庁に対し増車の申請をしてその認可を受けるか、または道後タクシーと合併するかのいずれかの方法による外ないのであるが、当時前者の方法を採ると同業者の反対を受ける虞れがあつたので反対の少ない合併の方法を採ることとなり、同年五月一三日道後タクシーを吸収合併した。

しかし、これより先、道後タクシーは同年二月二八日(前記売買代金を支払つた日の翌日)現在において、総額四、九三二、三二二円の資産と総額五、一一七、二一五円の負債を有していたが、その後原告と合併するまでの間に、道後タクシー代表取締役白石五郎が事実上の清算を行ない、前記自動車等の売買代金と共にこれを全部処分していたので、合併当時道後タクシーには資産も負債も共に皆無であつた。そのため原告は合併に当り被合併会社である道後タクシーの株主に対して合併による株式の割当、合併交付金の交付を行なわず、道後タクシーの資本金一九〇万円と別途積立金四五、〇〇〇円を原告の資本に組入れるについても、当時の社長木村秀太郎に対し組入資本額に相当する一、九四五、〇〇〇円を立替支払つたようにして記帳整理したような次第であつて、結局合併とはいつても、叙上の如き考慮から単に形式的に合併の形をとつたに過ぎないのである。

(3) なお、株式の譲渡については商法第二〇五条により株券の裏書によるか、または株券及びこれに株主として表示された者の署名をした譲渡証書を交付するかのいずれかの方法によることを要するところ、道後タクシーは合併に至るまで株券を発行していなかつたのであるから、そもそも原告にこれを譲渡するに由なきものであつたのである。

また、原告が前記売買代金として道後タクシーに交付した金員は手付金一〇〇万円を含めて九七〇万円であること、道後タクシーの自動車購入先に対する売買代金債務につき債務引受をしたこと及び道後タクシー代表取締役白石五郎が吉良から残代金を受取つた後も合併に至るまでの間に、道後タクシーの資産及び債務を自らの手で全部処分していることは、本件が株式の譲渡ではなく営業財産の一部の譲渡であつたことを示すものである。

(4) 以上のとおり、原告は道後タクシーとの合併前にその営業財産の一部を譲り受けたことはあるが、その株式を取得していた事実はない。

(三) よつて、法人税法施行規則第二三条の一〇を適用してなされた被告の前記課税処分は違法であるから、原告はその取消を求める。

二、被告の主張に対する答弁

(一) 被告主張(一)の合併の点以外の事実は争う。(二)の(1)、(2)、(5)(但し、原告が株式を取得したとの点を除く)、及び(6)の事実は認めるがその余はすべて争う。(三)は争う。

(二) なお、被告の主張に対し次のとおり附言する。

(1) 被告の主張(二)の(1)の事実については、本件は営業の譲渡ではなく営業財産の一部の譲渡であるから、本来株主総会の特別決議を要しないものであり、仮りに特別決議を要するとしても、右決議の存否と営業財産の一部の譲渡契約が現実に行われたか否かとは直接関係のないことがらである。運輸大臣の認可の点も同様である。

(2) 同(二)の(2)の事実については、原告は、当時譲り受けた自動車を営業用に使用することにつき前記の如く関係官庁の認可を受け難い事情があつたため、道後タクシー代表取締役白石五郎と協議の上、譲り受け後便宜上道後タクシーの名義でこれらの自動車を使用して営業を行ない、これによる収益についての法人税の申告も道後タクシーの名義で行なつた。その関係で収益の基本である右自動車等も道後タクシーのものとして記載しておかなければ辻褄が合わないのでそのように記載したに過ぎない。

(3) 同(二)の(3)の事実については、仮りにそのような決議がなされているとすれば、それは右白石五郎が、株式の譲渡とすれば道後タクシーに税金がかからないところから、営業財産の譲渡による課税を免れるために、そのように作為したものである。

(4) 同(二)の(5)の事実については、原告が道後タクシーと合併するにあたり、道後タクシーにおいても手続上取締役会を開く必要があつたが、既に道後タクシーの従来の取締役が全員辞任していたので、議事録に原告の関係者等の氏名を便宜株主として掲げ、これらの者によつて取締役を選任したように記載して形式をととのえたのである。

第三、原告の請求原因に対する被告の答弁及び主張

一、請求原因に対する被告の答弁

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実中、原告が道後タクシーと合併するに際し、その株主に対し合併による株式の割当及び合併交付金の交付を行なわなかつたこと及び道後タクシーが合併に至るまで株券を発行していなかつたことは認めるが、その余はすべて争う。

なお、原告は、道後タクシーにおいては株券を発行していなかつたから、原告がその株式を取得するに由ないと主張するが、株券が未発行であつても株式の譲渡は可能であつて、ただ会社に対しその効力を生じないに止まることは商法第二〇四条第二項に徴して明らかであるのみならず、そもそも法人税法施行規則第二三条の一〇にいう「法人が合併した場合において合併前に合併法人が取得した被合併法人の株式」とは株券発行前の株式の譲渡による事実上の株式の取得をも含むものと解すべきであつて、このことは税法における実質課税の原則からいつても当然である。

二、被告の主張

(一) 原告は、昭和三二年五月一三日道後タクシーと合併する以前に同社との合併を企図してその全株式を取得していたものである。

すなわち、原告は、松山市道後地区にタクシーの営業所を設置することを企図し、昭和三一年一二月頃、当事保険会社の外交員をしていた吉良権太郎に対し、買主が原告であることを口止めして道後タクシーの買収方を依頼した。しかして、当時道後タクシーは資本金一九〇万円、額面株式の券面額五〇円、発行済株式総数三八、〇〇〇株、株主数二二名であつたが、右吉良は、昭和三二年二月上旬頃、道後タクシーの当時の代表取締役白石五郎を介して、同社の株主全員からその所有株式全部(三八、〇〇〇株)を一株当り二五〇円、合計九五〇万円で買受けることを約し、その内金として八〇万円を右白石に交付し、同月下旬頃、右白石から道後タクシー全株主の白紙委任状つき株式引受証及び右吉良宛の株式譲渡証及び全役員の辞任届の交付を受けるのと引換に、残代金八七〇万円を白石に交付した。ところで、右取引において、吉良権太郎は仲介人に過ぎず、原告が真の買受人として右株式を取得したものであることは、右買収の経緯及び当時右吉良は保険会社の一外交員に過ぎず、前記買収資金もすべて原告から支出され、右株式引受証等も右吉良からその頃原告に引渡されていることに徴して明らかである。

かくして、同年二月二七日以降道後タクシーの経営は原告の掌握するところとなり、同年三月一六日原告と道後タクシーとの間に、合併契約がなされ、同年五月一三日その登記を経由し、原告は道後タクシーを合併するに至つた。

(二) なお、原告は、右の点につき株式の売買ではなく営業財産の売買である旨主張するが、然らざることは次の諸事実によつても明らかである。

(1) 原告の主張によれば、譲受物件は道後タクシーの営業用自動車及び電話設備の全部に及び、かつ道後タクシーの営業用建物をも賃借したというのであるが、かかる重要な営業財産の譲渡につき、道後タクシー、原告とも株主総会の特別決議がなされていない。また営業譲渡につきその有効要件である道路運送法第三九条による運輪大臣の認可も経ていない。

(2) 原告の専務取締役兵頭進が、道後タクシーの代表取締役に就任後、その資格において被告に提出した道後タクシーの昭和三一年四月一日から翌三二年三月三一日までの事業年度に関する法人税確定申告書添付の同年度末現在の貸借対照表には、原告主張の自動車及び電話加入権が依然として道後タクシーの資産として計上されている。

(3) 道後タクシーにおいては、昭和三二年一月二四日開催された臨時株主総会において、株主は全株式を一株当り二五〇円で前記吉良に売却する旨の決議がなされている。

(4) 道後タクシー代表取締役白石五郎が右吉良から受け取つた前記九五〇万円は同社に受け入れられることなく、そのまま同社の各株主に配分されている。

(5) 道後タクシーの従来の株主数は前記のとおり二二名であつたが、昭和三二年二月二七日行なわれた役員改選のための臨時株主総会の議事録には、同日現在の株主は四名で、しかも原告の当時の代表取締役木村秀太郎、同じく専務取締役兵頭進等が株主として記載され、更に同年三月一六日に行なわれた合併承認のための臨時株主総会の議事録にも同様の記載があり、これは右木村等は名義株主であつて当時既に原告が道後タクシーの株式を取得していたことを示すものである。

原告は合併に際し前記のとおり道後タクシーの株主に対し新株の割当、合併交付金の交付を全く行なつていない。

(三) 本件課税の根拠

原告は、前叙のとおり道後タクシーとの合併前に合併を企図してその株式を取得しており、合併に際し道後タクシーの株主に対し合併による株式又は金銭の交付を行なわず、ために被合併法人である道後タクシーには通常の合併ならば生ずべき清算所得を生じないことになり、原告の右株式取得により道後タクシーの合併による清算所得が不当に減少するので法人税法施行規則第二三条の一〇を適用すべき条件に該当し、右株式取得に要した金額は、合併法人たる原告が被合併法人たる道後タクシーに対し合併により交付する金銭とみなされる。以下その計算根拠を示す。

(1) 交付金とみなされる税金を含まない清算所得金額の計算

原告が前記株式の取得に要した九五〇万円は、法人税法施行規則第二三条の一〇により合併法人である原告が被合併法人である道後タクシーの株主に対し合併により交付する金銭とみなされ、法人税法第一二条の二により別紙計算表中(1)記載のとおり交付金とみなされる税金を含まない清算所得金額を七、六〇〇、〇〇〇円と算定した。

なお、積立金からなる部分の金額二三六、六七六円は、道後タクシーの昭和三二年三月三一日現在の積立金であつて、法人税法第一六条によつて算定したものであり、その明細は別紙積立金明細書のとおりである。

(2) 交付金とみなされる税額の計算

被合併法人である道後タクシーは、合併により消滅するため合併法人たる原告が納付する被合併法人の清算所得に対する法人税等は法人税法施行規則第二三条の九の規定により合併交付金等とみなして被合併法人の清算所得を計算することとなるが、この場合みなし交付金が増加すれば清算所得も増加し、当該みなし交付金と清算所得に対する法人税等とは相互に循環的に増加する関係にあるので、これを一致させるため、「改正法人税法(昭和二八年八月改正)等の施行に伴う法人税の取扱について」(昭和二八年一〇月三一日直法一―一一九―四七)の通達により、別紙計算表中(2)の算式によりみなし交付金の金額を一三、一二四、九三〇円と算定した。

(3) 課税標準となる清算所得金額及び法人税額の計算

課税標準となる清算所得金額は、別紙計算表(3)のとおり(1)により算出した金額七、六〇〇、〇〇〇円と(2)により算出した金額一三、一二四、九三〇円の合計額二〇、七二四、九三〇円である。これに対し清算所得に対する税率を乗じて法人税額を算出することとなるのであるが、右清算所得金額のうちには、積立金からなる部分の金額二三六、六七六円及び積立金以外から成る部分の金額二〇、四八八、二五四円が含まれているので、それぞれの区分に従い法人税法第一七条第一項第二号所定の税率(前者20/100%、後者45/100%)を乗じて法人税額を算定すると、前者につき四七、三二〇円、後者につき九、二一九、六九〇円、合計九、二六七、〇一〇円となる。

(4) なお、無申告加算税額については、原告は本件清算所得についての確定申告書を法定の提出期限である合併後二ケ月以内に提出せず、かつ提出しないことについて正当な理由がないから法人税法第四三条第二項第三号の規定により、右法人税額九、二六七、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)に対し税率一〇〇分の二五を乗じて、その額を二、三一六、七五〇円と算定した。

(四) 以上のとおり本件法人税課税処分は適法であるから、その取消を求める原告の本訴請求は理由がない。

第四、証拠関係〈省略〉

理由

一、原告主張の請求原因(一)の事実については当事者間に争いがない。

二、本件の争点は、要するに、原告が道後タクシーと合併する以前において、同社との合併を企図してその全株式を取得していたと被告が主張するのに対し、原告は、これを否定し、原告が譲受けたのは道後タクシーの営業財産の一部である乗用自動車八輛及び電話加入権である旨主張する。そこで、以下この点について検討する。

原告が、昭和三二年五月一三日、原告と道後タクシー間において同年三月一六日になされた合併契約に基づき、道後タクシーを吸収合併したこと及びその際原告が道後タクシーの株主に対し合併による株式の割当、合併交付金の交付を行なわなかつたことは、当事者間に争いがない。

成立に争いない乙第二号証の一、二、同第四号証の一、二の1ないし3、同第五、六号証、同第七号証の一、二、同第八ないし一四号証、同第一六ないし一八号証、同第一九号証の一ないし五、証人石田敏次の証言により成立の真正を認める甲第六号証の一、二、証人上田五郎(一部)、同藤原克己、同安永延秋、同佐藤見直、同石田敏次、同山本昭、同吉良権太郎(一部)、同清水志津代(一部)の各証言を総合すれば、

(一) 原告は、事業拡張の一環として松山市道後地区にタクシー営業所を設置しようと企図していたが、たまたま昭和三一年一二月頃、道後タクシーがその事業を手放す意向のあることを知り、これを買収すべく原告の専務取締役兵頭進をその任に当らせた。しかし、当時原告に対しては同業者間に不信感もあり公然と買収に乗り出せば同業者の反対を受け、また道後タクシーにおいてもこれに応じないおそれがあつて所期の目的を達成しがたいことを慮り、右兵頭は、当時保険会社外交員をしていた吉良権太郎に買収方法については一任し、只買主が原告であることを口止めして道後タクシーの買収方を依頼した。

(二) 右吉良は、原告の意図を体し、その頃道後タクシーの当時の代表取締役白石五郎(後に上田と改姓)に対し、久万の山持ち某が経営するので道後タクシーを譲り受けたい旨申し入れた。当時道後タクシーは、右白石を中心とする同族会社で、資本金一九〇万円(発行済株式総数三八、〇〇〇株、一株の金額五〇円、株主数二二名)、主たる資産としては営業用免許自動車八台を有し、収支漸く相償う程度であつたが、右申入れを受けた白石は、その別途経営にかかる道後映画劇場株式会社に事業を一本化し、タクシー事業は条件如何によつてはこの際整理してもよいと考え、売却方法につき関与税理士石田敏次に相談した結果、営業譲渡の方法によると道後タクシーに多額の税金が課せられるので株式譲渡の方法によるのが得策である旨の助言を得たので、吉良に対し売却方法は全株式の譲渡とし、売却価額は道後タクシーの実質的なほとんど唯一の負債である前記自動車の購入先である愛媛日野ヂーゼル株式会社、愛媛日産自動車株式会社に対する自動車月賦買入代金の残債務一、三二〇、七六八円を考慮して一株二五〇円の線を崩さない限りその値段でならば道後タクシーを手放してもよい旨申し出て、同人の了承を得た。そこで白石は、昭和三二年一月二四日、道後タクシーの株主を招集して臨時株主総会を開き、各株主はその所有株式を一株二五〇円で売却することを決議し、白石にその折衝を委ねた。

(三) しかして、昭和三二年二月三日頃、右吉良と白石との間において、道後タクシーの借入金中、伊予銀行からの四、四五〇、〇〇〇円の借入金は前記道後映画劇場に対する仮払金と相殺勘定となつており実質上同劇場の債務であるから白石が責任をもつて処理することを約した上、道後タクシーの全株式三八、〇〇〇株を吉良の依頼人に対し一株当り二五〇円、合計九五〇万円で売却する旨の契約が締結され、同日及び同月二七日頃、右株式譲渡の対価として九五〇万円の金員が、原告の出捐において、吉良から白石に対し交付され、右金員は道後タクシーに受け入れられることなく、同人から株主に分配され、なお一部は株主の了解を得て白石が経営する道後映画劇場株式会社に対する貸付金又は出資金に転化された。一方、右代金完済と引換えに道後タクシー全株主の白紙委任状付株式引受証及び全役員の辞任届が、白石から吉良に交付され、同人を通じその頃原告に渡された。

かくて、道後タクシーの経営の実権は原告の掌握するところとなり、右取得株式に基づき原告の代表取締役木村秀太郎、同じく専務取締役兵頭進らが名義株主となつて、右兵頭進を道後タクシーの代表取締役に就任させ、同年三月一日役員改選の登記を経由し兵頭進が道後タクシーの経営の衝に当ることとなつた。

(四) 右白石は、前記代金受領後間もなく原告の関係者が道後タクシーの営業所に派遣されてきてはじめて買主が原告であると察知し、同時に吉良からもこれを打明けられ、日頃同業者間でとかくの風評のある原告に経営を委ねることを心良く思わなかつたが、既に代金の受領後であつたのでやむなくこれを了承し、同年三月上旬頃松山市二番町料亭志奈乃のおいて右兵頭進と会合し、道後タクシーの経理その他の事務引継を行なつた。

以上の事実を認めることができ、これに当事者間において争いない次の事実、すなわち、(1)原告、道後タクシーとも、営業財産譲渡譲受のための株主総会の決議、及び道路運送法第三九条による運輸大臣の認可申請の手続がなされていないこと、(2)道後タクシーの昭和三二年二月二七日付役員改選のための臨時株主総会議事録には、株主が四名となり、このうち原告の当時の代表取締役木村秀太郎、前記兵頭進が株主として記載されており、更に同年三月一六日付合併承認のための臨時株主総会議事録にも同様の記載があること、(3)右兵頭進が道後タクシー代表取締役の資格で被告に提出した道後タクシーの昭和三一年四月一日から昭和三二年三月三一日までの事業年度に関する法人税確定申告書添付の同年度末現在における貸借対照表には、原告主張の自動車及び電話加入権が依然として道後タクシーの資産として計上されていること、及び前叙合併についての争いない事実を併せ考えると、本件は営業財産の一部の譲渡ではなく、被告主張の如く、原告は昭和三二年五月一三日道後タクシーを吸収合併する以前において、道後タクシーとの合併を企図し、同社の全株主から発行済総株式三八、〇〇〇株を代金九五〇万円で買受けていた事実を肯認するに十分である。

以上の認定に関し、原告提出にかかる反対証拠のうち、(1)、甲第一号証(自動車営業譲渡譲受契約書)には、昭和三二年二月七日、吉良権太郎と原告代表取締役木村秀太郎との間で、吉良が同月三日道後タクシーから譲り受けたタクシー事業の営業権、営業用自動車八輛及び既設電話一基を代金一、一〇〇万円で原告に譲り渡す旨の記載があり、また甲第三号証(領収書)には、吉良が同月二七日右売買代金一、一〇〇万円の残代金一、〇〇〇万円のうち、愛媛日野ヂーゼル株式会社及び愛媛日産自動車株式会社に対する車輛三輛の未払金一三〇万円を差引いた残金八七〇万円を原告から受領した旨の記載がある。しかし、前示認定の資料に供した各証拠及び当事者間に争いない前叙(1)ないし(3)の事実に対比すれば、右甲第一号証及び同第三号証の記載をもつて原告主張に副う証左と解することは到底困難であり、これにより前示認定を動かすに足りない。もつとも、右甲第一号証及び同第三号証記載の代金額の点に関し、成立に争いない甲第二号証の一、二、同第一八号証の一ないし三、乙第一八号証、同第一九号証の一ないし五によれば、吉良は、原告から交付された同月四日付原告振出の額面二〇万円及び八〇万円の小切手二通、同月二七日付同じく原告振出の額面八七〇万円の小切手一通を自己の取引銀行である株式会社香川相互銀行三津浜支店の当座預金口座に振込んだ上、同月五日頃同人振出の額面一〇〇万円の小切手一通、同月二七日頃総額八七〇万円の小切手四通を白石に交付した事実が認められるので、前叙株式の譲渡価額と二〇万円の差を生じ、その限りにおいては被告主張の株式譲渡価額にそごを来たし、ひいては株式譲渡自体をも否定すべきかのようであるが、前顕乙第五号証及び同第八号証に徴すれば、少くとも株式譲渡の対価そのものとしては前叙九五〇万円と認めるに支障なく、右交付金額の差異は、吉良または白石の不明朗な所為に帰することは格別、本件が株式譲渡であるとする前示認定を左右するものではない。なお、右乙第三号証記載の自動車購入代金残債務の点に関し、証人兵頭進の証言により成立の真正を認める甲第五号証の一、二、証人大野仁臣、同浅野平二郎、同篠永長典の各証言によれば、原告が、道後タクシーの愛媛日野ヂーゼル株式会社及び愛媛日産株式会社に対する自動車月賦購入代金残債務中一三〇万円を支払つた事実を認めることができる。しかし、前示認定のとおり本件株式譲渡の対価は道後タクシーの右債務を考慮しこれを新経営者側に引継ぐことを前提として取極められたものであり、右債務は本来道後タクシーにおいて支払うべきものであることはいうまでもないが、道後タクシーの全株式を取得しその実権を握つた原告が右債務を引受けて支払つたとしても、企業所有と企業経営の一致する本件においては別段異とするに足らず、このことは前示株式譲渡の事実と矛盾するものではない。(2)、成立に争いない甲第一〇号証(家屋賃貸借契約書)によれば、道後映画劇場株式会社が、昭和三二年三月一日から、その所有の松山市大字道後八七三番地所在の家屋(道後タクシーの営業所)を原告に家賃一ケ月二万円で賃貸する旨約した事実を認めることができる。なるほど、原告が道後タクシーの全株式を取得し、道後タクシーの名義で営業を継続するのであれば、従前からの賃貸借を承継できるので、かかる契約を改めて締結することは一見不要のようにも考えられる。しかしながら、前示認定の、道後タクシーと道後映画劇場株式会社がいずれも白石五郎の経営にかかる同族会社であつた事実に、証人上田五郎の証言を併せ考えると、同人が従前通り道後タクシーの経営を続けている限り利益の実質的帰属に影響はなかつたが、第三者が経営することになれば事情を異にし右劇場会社としては賃貸関係を明確にし賃料を確保する必要があつたことを推認でき、従つて右賃貸借契約の存在も前示株式譲渡の事実の認定の妨げとなるものではない。(3)、甲第一七号証の一の1、2、二ないし四、五の1ないし7には、前示認定の(四)の会合の日時の点に関し、原告関係者が昭和三二年二月一日から同年三月末日までの間に、料亭志奈乃において飲食したのは、同年二月五日、二五日の両日だけで、五日には原告の専務取締役名義で四名が飲食した趣旨の窺える記載がある。けれども、料亭業者が馴染客または即金払の客に対し常に請求書や領収書を作成し、これを帳簿に記載するとは限らないばかりか、この点に関する証人清水志津代の証言によつて成立の真正を認める甲第一五号証の記載、証人清水志津代の供述及び前叙代金支払方法に照らし、さらには証人吉良権太郎の証言によつて成立の真正を認める甲第一号証、前顕甲第六号証の一、二、の各作成日付に徴しても、冒頭掲記の甲号証の記載は、この点に関する前示認定を動かす資料として採用できない。(4)この外、前示認定に反する甲第九、一五号証、証人兵頭進、同吉良権太郎、同清水志津代、同田窪正雄、同宮脇季雄、同上田五郎の各証言は以上の説示に照らして採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

なお、原告は、道後タクシーにおいて株券が発行されていなかつたので、株式を譲渡するに由なきものであつた旨主張するが、株券未発行でも株式譲渡が可能であることは商法第二〇四条第二項の規定に徴して明らかである。

三、ところで、法人税法施行規則第二三条の一〇(昭和三七年政令第九五号「法人税法施行規則の一部を改正する政令」による改正前のもの)には「法人が合併した場合において、合併前に合併法人が取得した被合併法人の株式があり、その取得により被合併法人の清算所得金額が不当に減少する結果となると認められるときは、当該株式の取得に要した金額は、合併法人が被合併法人の株主、社員又は出資者に対し合併により交付する金銭とみなし、当該株式については、合併法人の株式の割当又は引当があつたものとみなして被合併法人の清算所得金額を計算する。」と規定されており、本件において、原告が道後タクシーを吸収合併する前に合併することを予期して被合併法人たる道後タクシーの全株式を取得していたこと前段認定のとおりで、このため被合併法人である道後タクシーには通常の合併ならば生ずべき清算所得を生じないことになり原告の右株式取得により道後タクシーの合併による清算所得が不当に減少するに至つたことも前説示のところから容易に肯認し得るところであり、なお、同条にいう「株式」とは税法における実質課税の原則からみても株券発行前の株式の譲渡による事実上の株式の取得をも含まれると解すべきであるから、本件は同条所定の要件に該当する。

そこで進んで、本件課税標準たる清算所得金額及びこれに対する法人税額の計算根拠について検討する。先ず、(1)法人が合併した場合の清算所得の計算は法人税法第一二条の二(昭和三七年法律第四五号「法人税法の一部を改正する法律」による改正前のもの)によることとなるが、本件においてはその計算基礎として前示法人税法施行規則第二三条の一〇により原告が前叙株式取得に要した九五〇万円は合併交付金とみなされる結果、交付金とみなされる税金を含まない清算所得は、別紙計算表(1)記載のとおり、右金額から前示道後タクシーの資本金額を控除した七六〇万円と算定される。なお、成立に争いのない乙第三号証によれば、道後タクシーの積立金は別紙積立金明細書記載のとおり合計二三六、六七六円と認められるので、右清算所得のうち、積立金からなる部分の金額及び積立金以外からなる部分の金額はそれぞれ同計算表掲記のとおりとなる。次に、(2)法人税法施行規則第二三条の九(昭和三七年政令第九五号「法人税法施行規則の一部を改正する政令」による改正前のもの)により、合併法人が納付する被合併法人の清算所得に対する法人税又はその法人税にかかる地方税額に相当する金額は合併交付金とみなされて被合併法人の清算所得金額を計算することとなるが、この場合の計算は、次の通達、すなわち「改正法人税法(昭和二八年八月改正)等の施行に伴う法人税の取扱について(昭和二八年一〇月三一日直法一―一一九―四七)」によることとなり別紙計算表(2)の算式により右みなし交付金の金額は一三、一二四、九三〇円と算定される。(3)本件の課税標準となる清算所得金額は、結局同計算表(3)記載のとおり右(1)、(2)で算定した金額の合計二〇、七二四、九三〇円となると考えられるので、このうち積立金からなる部分の金額及び積立金以外からなる部分の金額の区別に応じ、法人税法第一七条第一項第二号(昭和三三年法律第四〇号「法人税法の一部を改正する法律」による改正前のもの)に則り所定の税率(前者20/100%、後者45/100%)を乗じて算出すれば、本件合併による清算所得に対する法人税額は九、二六七、〇一〇円となることが計算上明らかである。

なお、無申告加算税額については、原告が本件清算所得に関する確定申告書を法定の提出期限である合併後二ケ月以内に提出しなかつたことは弁論の全趣旨に徴して明らかに原告の争わないところであり、かつその提出しなかつたことにつき正当な理由があつたとの事実は原告が主張も立証もしないところなので、法人税法第四三条第二項第三号(昭和三七年法律第六七号「国税通則法の施行等に伴う関係法令の整備等に関する法律」による削除前のもの)により右法人税額九、二六七、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)に対し税率一〇〇分の二五を乗じて算出した二、三一六、七五〇円の加算税も当然追徴されることとなる。

四、以上の次第で、被告のなした原告に対する本件法人税課税処分(審査決定で取消された部分を除く)には、何ら違法な点は存しないので原告の請求は理由がない。

よつて、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(別紙計算表省略)

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